今まで書き溜めていたモノをこっそりと後悔するブログ
現在『風の聖痕SS』連載中
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 ――力を。 そこは広大な広場であった。 半径数百メートルに及ぶかというほどの巨大な空間。 所々に配置されている松明の炎は大気を緋く染め、天上に浮かぶ眩月はその姿を明瞭に闇に映している。 ――静寂が支配している。 風、草木、果ては時間までもが死んだように停止している。 ごうごうと流れる雲は鏡面に映る幻のように現実味がなく、世界が切り離されたようにその場所はそこにあった。 その広場の一角に固まるようにして鎮座する集団。 数は数十人から百人ほどであろうか、この巨大な空間ではどちらかといえば少ない部類に入るであろう。 ちりちりと炎が空気を喰らう音すら聞こえる程の無音の世界。 静止した時間。凍りついた空気。 誰もが自身のいる場所が定まっているかのように、厳粛に正座し、顔を緊張に強張らせて佇んでいる。 それは幼い子供も、晩年に差し掛かろうという老人も何の例外ではなく、異常とも言えるほどの緊迫した空間を作り出している。 ――だが、その荘厳な雰囲気をぶち壊している一人の少年がいた。 「…あ~くそダリィ」 誰にも聞かれないようにこっそりと呟かれた声には、やる気の欠片も感じることはできなかった。 顔立ちは整っている部類に入るであろう。高密度に凝縮された筋肉は、豪胆さとしなやかさを両立し、日ごろの鍛錬の厳しさを物語り、身体に一本芯が入ったような正座は、さながら不動の山か、流れいく風を思わせるほど見事だった。 だが、いかんせん彼の表情がその全てを台無しにしていた。 それは例えるならば―――根性がひん曲がっているような、疲れきった中年のサラリーマンのような――。とにかく締りのないみっともない顔をしている。一応は真面目に取り組んでいる姿勢を演技しているだけあって立ち振る舞いは完璧なのだが……&hellip表情とのギャップが大きすぎてだらしのない印象をさらに強烈にしていた。 「……眠いな、こりゃ――……」 実際に青年――神凪和麻(16歳)にとって、これから此処で行われるある儀式には何の関心も持っていなかった。 ―――神凪一族 炎術士最強の名をほしいままにする退魔の一族。 数ある退魔の家系と同じく、神凪は血によってその業を継承する。 それ故に神凪に生まれたものは例外なく、火の精霊王の加護を受けている。 例を挙げるならば――― それはありとあらゆる魔を滅する浄化の炎。 理不尽とも言えるほどの精霊の召喚量。 異常と言えるほど高い耐火能力。 その全てが生まれ持った彼らの武器であり、誇りである。 そして、今日。此処である儀式が行われようとしている。 それは一族を統べる宗主を決定する儀式。 それは降魔の神剣『炎雷覇』の所有者を選び出す究極の術宴。 ―――その儀式の名を『継承の儀』といった――― さて、ここで話は戻ってくるのだが、和麻は『炎術士』ではない。 神凪宗家の嫡子として生まれながら炎術が使えないのだ。 ついでに言うならば和麻は風術士である。 とある事件より、風の精霊と和合する力が目覚めたのだがここでは関係のない話なので割愛させてもらう。 ……まあ、そのせいで一族の連中から虐められ悲惨な(言葉では表せないくらい辛い)少年時代を過ごすはめになったが、そんな自分を和麻は卑下したことなどなかった。 だから和麻は宗主どころか、儀式に参加する権利さえ本来はない。 つまり、炎術士でない者に火の精霊王の神具である炎雷覇は扱えないがゆえに、儀式に参加することはないだろうと和麻は考えていたのだ。 「――――だったんだがなあ…」 ところが、ここで話は違ってくる。 和麻の父親――厳馬が、強引に和麻を儀式にねじ込んだのだ。 その報告を聞いたとき、和麻はハア!?っと父の正気を疑った。何故ならまったく理解できなかったからだ。 父が何を考えて自分をそのような重要な儀式に参加させるのか、さっぱり分からなかったからだ。そもそも父、厳馬は神凪を代表する戦闘能力至上主義者であり――つまるところ炎術士至上主義である。 そうであるが故に和麻が炎術を使えないと分かったときの反動は凄まじかった。 ……おおぅ、今思い出すだけでもひどいもんだ。 和麻は面白いジョークを聞いたときのように、笑った。 本当によくこんな父親とくそったれな一族の中で、清廉潔白で常識のある真人間に育ったものだと自分を褒めてやりたくなった。 きっと自分は拾われた捨て子か何かで、本当は父や母の子ではないに違いないと、一時期本当に疑ったことがあるほどだ。 ……まあ、ここだけの話、こっそりとDNA鑑定してもらったことがあるのは秘密だ(…結果を見て更に落胆したことも秘密だ)。 というわけで和麻はふざけんなと親父をぶん殴ってやりたい気持ちは常にある。だが、悔しいことに親父は神凪最強の術者であり、正面からいっても反対に叩きのめされるのは眼に見えていた。 「殺す気」になれば――そう、不意打ちでも何でも手段はいくらでもある――話は違ってくるだろうが。 戦闘系のベクトルに傾いている炎術士は、そういった搦め手に弱く、また特化しているためか応用が利かないからだ。そして風術は戦闘に適した術ではないものの、その『搦め手』こそが得意分野である。 …だが、さすがに実の父相手にその気にはなれないし、親友と姉から教わった風術をそんなことに使いたくなかった。 (無論いつか必ず今までの事に熨斗つけて「お返し」をしてやるつもりではある) だから何時も通り父親に絶対服従している気弱な息子の皮を被って、その命を受け入れることにした。 …そして絶対にいつの日か、おもいっくそぶん殴ると誓いを新たにしていた。 故に、和麻にとってこれは茶番以外の何物ではない。 彼にとって、この儀式に参加することは何のメリットもない。 彼の心情を、直接的かつ端的に、分かりやすく一言で表現するならば ―――めんどい。 ただそれのみであった。 ―――と。 和麻は自分に向けられている視線に気づいた。 その視線の正体は少女だった。まだ10歳に届くかどうかというほど幼い容姿をしている。艶光する腰にまで長く伸ばした黒髪。 整ったかんばせの中、ひときわ輝く意思に満ちた瞳。 少女の名を―――そう、確か綾乃、綾乃といったか。 現宗主である叔父の一人娘ではあり和麻にとって再従妹(はとこ)ともいえる存在。そしてこれから儀式で、和麻が戦わねばならない相手でもある。 炎術の才はこの歳にして宗家で指を折るほどに成長しているのだそうだ、もっとも和麻は少女のことを詳しくは知らなかった。 というのも和麻にとって、この少女は優しい叔父の愛娘というだけであって彼女自身については何の感慨も持ってはいないからだ。 ……口を利いたことすら録にない。 (誰もこいつの勝利を疑ってないんだろう) どうやら先ほどの独り言が聞こえていたようだ。いや、それとも態度が気に障ったのだろうか。そのこちらを糾弾するような蔑むような視線が煩わしいといえば煩わしい。まあ、其れをいうならばこの状況そのものがそうだといえるのだろうが。 「まぁ――どうでもいい」 今度はハッキリと聞かせるように呟く。 その挑発に少女、綾乃が更に厳しくこちらを睨みつけてくるが、どうでもいい。 もはや父も、一族の偏質も彼にとって意味はない。 戦う以上は手を抜かないが、儀式の勝利も敗北も彼には関心はない。 つまり今、彼がもっとも望んでいることは 「はやく終わんねえかなあ……」 だらしのない声を聞いて綾乃がさらにこちらを侮蔑する視線を送ってくる。 10歳のまだ幼いといっていい少女に冷め切った眼で見下される16歳――構図的には、あまりにもみっともない。だが、それを気にするような和麻ではなかったし、むしろ小娘相手に戦わねばならないことの方が彼にとっては頭が痛かった。 それは少年、神凪和麻の紛れもない本心であった。 ■ ■ ■ 「………っ」 神凪綾乃にとって和麻の第一印象は、はっきり言って最悪だった。 以前から面識は一応あるのに第一印象――というのもおかしいかもしれないが、彼女にとってはその表現は正確だった。 (なんでこんな奴が儀式に参加できんのよ…) 心からそう、思う。 目の前で眠そうにとぼけている男、和麻を睨みつける。 綾乃は最大限の侮蔑と苛立ちを視線に込めているのだが、和麻は飄々としてこちらを気にしようともしない。それは、まるで綾乃のことがどうでもいいと言わんばかりの態度である。 ――不愉快だった。 炎術も使えない無能者―――路傍の石に等しい存在にこちらが舐められている。そしてこの重要な『継承の儀』そのものを、神凪そのものを馬鹿にしたその態度。そうだ。この男は、私たち神凪が積み上げてきた千年を馬鹿にしているのだ。 千年。長きに渡って伝えられてきた血。先人が磨き上げてきた技と誇り。 それを、この男は、 (馬鹿にして、虚仮にしている) 心が沸き立つ。 だから、許せない。 だから、許さない。そう、許しがたい。 綾乃の視線に殺気すら混じり始めた。 元来綾乃は自制心が強い方ではない。 まあ、幼い少女にそれを期待することは難しいだろうが、それでも直情傾向にあるのは否定できない。 そして、だからこそ目の前の存在が許せなかった。 気に食わない、その顔が、その態度が、その全てが気に食わなかった。 その感情はどうしようもないほどまで自制の利かないものに肥大していった。 ――この男は私にとって敵でしかない。 潰す、と綾乃は決意した。 それこそ徹底的に、己の非力さを思い知らしてやる。 和麻は風術を使うと重吾は言っていたが、そんなものは炎で全て消滅させる。 そのふざけきった顔を、そのだらけきった性根を叩き直してやる。 初めは手加減をしようと考えていたが、もはやそんなものは関係がない。 今にも爆発しそうな感情。己の許容量を超えて、すぐにでも決壊しそうなそれを必死に制御しながら綾乃は思った。 そう、己の為すべきことは唯一つ。この腐りきった男を、全身全霊を以って、完膚なきまでに――― (ぶちのめす……!!) 和麻はかったるそうでどこか茫洋とした瞳を、ただ虚空に向けている。 むしょうに殴りたくなるその顔を我慢しな がら、綾乃は儀式の始まりを待っていた。 back next PR
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nobu
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読書とプログラム(java)
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現在「風の聖痕」の二次創作を連載中。色々と荒削りなヤツですが楽しんでもらえたなら幸いです。 メールはこちらに nobsute928@yahoo.co.jp
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