今まで書き溜めていたモノをこっそりと後悔するブログ
現在『風の聖痕SS』連載中
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 『それは、彼女にとって、初めての―――――』 欲しい物はいつでも簡単に手に入った。 それはどんなモノでも例外はなかった。 優しい母。尊敬すべき父。絵に描いたような幸せな家族。 神凪宗家の血を最も濃く受け継ぎ、一族からは神凪の姫君と持て囃された。 幸せはすぐそこにあり、笑顔がいつも自分の側にはあった。 不幸など知らず、限界など知らない。 炎術の才は齢10歳にして、一族の中で華を開き、次代の宗主間違いなしと言われるようにもなった。 そう、幸せだった。 努力などしなくても成功するほどの才能があった。 何もしなくても人の中心に立てるほどの人望があった。 願った望みは全て叶い、予想もしなかった嬉しい誤算は日常茶飯事だった。 だから―――今回も簡単に手に入るはずだった。 当然のように思っていた。 疑問など感じず、それこそ決まりきった結末を見るかのように。 『選ばれた人間』である自分に手に入らないものなどないと思っていた。 この日、『継承の儀』が始まるまでは。 ■ ■ ■ その光景を、誰が信じることが出来たのか。 「…――うそ」 ――ありえない。 呆然と綾乃は呟いた。 広場は爆心地さながらの様を呈していた。 地面は球形状に抉りとられてクレーターを作り、綾乃の放った炎の余波を受けて大気は霞むように揺らめいている。 その一撃はさながら天災だった。 太陽さながらの熱量を持った黄金の炎は、土を蒸発させ、大気を食い尽し、常人の想像を遥かに超える破壊を広場 の中央に撒き散らした。摂氏数万度の、太陽表面温度を軽く超える超超高熱は、精霊魔術の真髄を表すように術の範囲外にはまったく影響を与えてはいない。 だが、その分一点集中したその炎は爆圧と高熱の連鎖により、術の範囲内は言葉に表せられないほどのエネルギーが顕現している。 それ故に何者も耐えることなどできはしない まして生きているもの者などいるはずもない。 神の如きその力の前では所詮風術など何の役にも立ちはしない。 ―――なのに、 風が吹く。 ―――そのはずなのに、 広場を覆っていた炎が揺らぐ。 ―――そのはずなのに、何でっ! 「おお、こりゃまた派手にやったもんで…」 ―――何で、この男はこうまで無傷で立っていられるのか―――!! 綾乃は、その信じられない光景に自分の常識が崩れていくような感覚を味わっていた。目の前の男―――和麻は相変わらずへらへらと笑い、何のやる気も感じられない。しかし、和麻のいる空間――周囲数メートルはまったくの別世界だった。ゆるやかに流れる風が、和麻を抱くように舞い、ゆるりと穏やかな世界を作り出している。 (―――風の結界!?) 綾乃はそれを一目で看破した。 精霊術士はその意思力によって、現世に己の思い描いた事象を顕現させる。 物理法則との相乗によりその威力を増し、四大の属性に分かれてその奇跡を発動させる。 和麻の下に集まっている精霊は、台風の渦のごとく膨大な数に及んでいる。 異常なほどの精霊の数だった。―――それは先の綾乃に匹敵するほどに。 「…おーい、じゃ、今度はこっちからいきますよっと」 和麻は右手に風を纏う。 そして未だ、綾乃の支配下にある炎をわずらわしげな仕草で無造作に振り払った。 「……ッ!!」 烈風が巻き起こる。 荒れ狂う風が和麻を中心に巻き起こり、局地的な竜巻が発生した。 視界が風によって塞がれ、確実に綾乃の炎を削られていく。 その暴風の中、綾乃は必死に己の炎を制御しようと試み――――凶悪なカンに従い全力でサイドステップした。 直前まで綾乃が居た位置を、風の刃が通り抜けていく。 ―――ぞくりと背筋が寒くなった。 それはたいして威力もない風の刃だったが、今の風は確実に綾乃を狙っていた。 一時的とはいえ炎の制御権を失った所への―――風の不意打ち。 …喰らえば確実に腕の一本は飛んでいた。 「……へぇ?今の一撃を避けるとはな。さすがは神凪重吾の娘―――といったところか」 「っつ!!うるさいうるさいっ。いったいあんた何なのよ!!」 和麻の淡々とした――しかしどこか嘲るような賞賛に、 激昂するように綾乃は叫んだ。 そうだ、いったいこの男は何者なのか。 神凪宗家――しかも綾乃の炎を受けて無傷。そして先ほどの風の刃。 その全てがこの男の非凡さを表している。 ――だが、 だがそうだとしても! 誰が想像できるというのか、風術で炎術と渡り合うなど。 誰が認められるというのか、こんなありえないでたらめを。 綾乃は恐慌に近い混乱の只中にあった。 「俺が何者かって?――っは。こりゃまた、ねえ」 その言葉を聞いた途端、和麻は皮肉げに口を吊り上げた。 「俺は非力で脆弱な風術使いに過ぎねえよ。炎術も使えない無能者、ましてお前のように天性の力など何も持ってはいない。 ……そうだな、お前ら神凪風に言うならば――どうでもいい路傍の石。 ――さしずめ『弱者』といったところか」 和麻は自分の台詞にどこか感じ入ったように、くくっと笑った。 それは自嘲の笑みであり、愉悦の笑みであり、そして―――紛うことなき嘲笑の笑みだった。 (!!っつ―――っ落ち着きなさい、わたし) 綾乃はともすれば暴走しそうになる己の感情を、多大な労力をもって無理やりねじ伏せた。 精霊術士の力は個人の意志力によって制御されている。 意志力――つまり精神力。 自己を見失うことは精霊の制御権を手放すことに等しい。 そうであるが故に戦いの場においては己を殺すことに直結する。 そして、この男はその隙を見逃すようなことを絶対にしないだろう。 乱れていた呼吸を抑え、己の内面を意識する。 綾乃は活力を身体に注ぎ込み、自身の精神を制御(マインドセット)した。 ―――ああ。認めよう、認めるしかない。 この男は強い。 この男は強い。 風術士だとか、そういったことに関係なくこの男は強い。 あなどって勝てる相手ではない。 そして、だからこそ―――潰す。 潰さなければならない。 わたしの全力を以て、いま、ここで―――― 「…分家の連中とは違う、か」 和麻は、その綾乃の様子に少し感心したかのように呟いた。 幼い、まだ10歳の少女であるのに、この自己制御はなかなかにすばらしい。 だが風に溶けるように消えたその言葉は綾乃には聞こえなかった。 もっとも、聞こえていたとしても今の綾乃には関係がない。 何故なら極限まで集中された意識は、和麻――ただ一点のみに固定されていたからだ。 「―――」 綾乃は先ほどの狼狽を見せることなく、呟いた。 和麻はそれをニヤニヤと楽しげに嗤いながら、綾乃に問う。 「………へえ、何を?」 「決まってるじゃない。あんたの―――」 「―――死を」 炎が渦巻く。綾乃の意思そのままを激情に変えて収束する炎。 それに反比例するように増加する熱量。 召喚され始めた火の精霊がたゆうその光景は、さながら炎の魔人(イフリート)が現世に光臨した様だった。 それからの展開は一方的だった。 綾乃は遠距離からの攻撃に切り替えたのか、一発一発が分家の術者10人分以上に匹敵する炎の玉を連続で放つ。 それには弾切れなど存在しない。それは相手が殲滅されるまで攻撃を続ける炎の猛弾。 『発射』されると同時に『装填』され、『装填』されると同時に『発射』される。 轟音に次ぐ轟音。 爆音に次ぐ爆音。 視界は白く染まり、閃光だけがその場を支配する。 そしてついには音さえも麻痺したように聞こえなくなり、空の闇色は完全に塗りつぶされていた。 その攻撃の余波は、遠く離れた一族の結界を軋ませるほどに強力であり、もはや完全に和麻の姿は光に呑まれている。 ―――しかしそれでも綾乃は攻撃をやめようとはしない。 額には、滝のような冷や汗がある。 限界が近づいてもやめることなど出来はしない。 もしかしたら彼女は恐怖していたのかもしれなかった。 退魔の現場。日頃の鍛錬。そういったものを除けた初めての真剣勝負。 そして、思いもよらなかった強敵。 それらは彼女に大きなプレッシャーとなって圧し掛かっていた。 だが、さしもの綾乃も、遂に攻撃が途切れる時がきた。 「……ハアっ…………ハア…やったの?」 白く染まっていた視界は、ゆっくりとだが暗さを取り戻していく。 もはや綾乃は限界に近かった。精神は磨り減り、肉体は鉛のように重い。 荒く息をついて、身体を少しでもいいから休ませる。 どちらにしろ、もうこれで終わりだろう。和麻がこれで無事でいるはずがない。 ――いや、もしかしたら生きてさえいないのかもしれない だが、これは『継承の儀』での決闘なのだ。 例えそのせいで死ぬことになろうと、全ては次代の神凪のため。 人死には許容される。 血は強者によって継がれ、炎はそれを祝福する。強きを求め、強きを縛り、強き者こそが神凪を制する。 そうやって、何百年も受け継がれてきたのがこの儀式なのだ。だから、たとえ和麻が死んでいようと―――後悔はない。 そして綾乃が勝利を宣言しようとしたそのときだった。 ………パチ、パチ、パチ、パチ…… ―――爆炎の中から、気の抜けるような拍手の音が聞こえてきたのは。 ■ ■ ■ 「……たくっ、ガキの相手をするのも一苦労ってか。まあ、今の攻撃はなかなかだったな。――ほれ、服が焦げちまったじゃねえか」 信じられない。 まったくもって信じられない。 和麻は、所々焼き焦げた服を持ち上げるようにして飄々と笑っている。 身に纏うは蒼い風。極北の疾風。 そして―――まったくの無傷。 ――その事実が理解できない。 「…なんでっ」 あれは綾乃が出来る最高の攻撃だった。 質より量をとったが、それでも一撃一撃に全力を込めた数え切れないほどの炎弾。 どんなものでも絶対に滅ぼせる自信があった。 「…―――なのになんでっ」 いや、そもそも、綾乃に敵う者など一族内では片手で数えるほどしかいなかった。 だから、この『継承の儀』もそれこそ簡単に終わるものだと思っていた。 だから、これはおかしいのではないか。 こんな状況はあってはならないのではないか。 「―――なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでっ!?」 口からは疑問ばかりが溢れ出してくる。 そのあまりの混乱ぶりに綾乃の制御していた精霊達は霧散し、致命的な隙が出来る。だが、和麻は綾乃の癇癪をただ、黙って見つめている。 その瞳は優しくも、厳しくも、蔑んでもいない。 「なんで!!なんでわたしの炎が効いてないのよ!!」 「お前が弱いからだろ」 和麻は容赦なく、綾乃に言い放った。 ピシリと固まる綾乃。 だが和麻は何の遠慮もなく彼女の誇りを踏みにじる。 「……わたしが、弱い?」 そんなことは誰にも言われたことはなかった。 父様にも、母様にも、一族の誰にも―――。 「ああ、少なくとも俺よりはな」 そう、認めたくなくても認めざるえない。 今綾乃の前で存在している圧倒的なリアルがそれを強制してくる。 「確かにお前の炎は天性のモノだ。 さすがは神凪宗家の血をもっとも濃く引いている言われているだけのことはある。 ―――だがな、ただそれだけだ。」 本当に、それだけだ。と和麻は言う。声に侮蔑の色はない。 淡々とただ事実のみをしゃべるが故に、それは綾乃を追い詰める。 「天性の才能に胡坐を欠いて、その力の使い方がまるでなっていない。 制御も、圧縮も、炎術の用途もお粗末極まりない。 術法の創造性も、状況に対する把握力も足りない。 ―――分かるか?どれだけ力を持っていようとそれを制御できていない時点で宝の持ち腐れも同然なんだよ。 それにお前は気付いてねえみたいだから教えてやるが――――俺は、お前の炎 を防いでなんていない。いや、もとより防ぐことなどできない」 いったいこの男は何を言っているのか。 綾乃はさらに混乱する。現にさきほど綾乃の炎は全て和麻に防がれているではないか。 ここではっきりさせておきたい事は和麻の最大召喚量は、綾乃と変わりはないということだ。 エネルギー保存則で証明されているように質量の圧倒的に軽い風術が、同じ量の精霊で構成された炎術とタメを張るためには4~5倍もの精霊を召喚せねばならないのだ。 故に風術は非力であり、神凪の中では下術と称されている。 ―――だから前提として風術士は戦闘に向かない。 ならば和麻はいかにしてその圧倒的な差を埋めたのだろうか? 「ふん、分かんねえって面だな。まあいいさ、教えてやるよ。 正面から闘って勝てないなら、まともに相手をしなければいいだけの話だ。 戦闘馬鹿な炎術士と違って、俺は非力な風術士――『弱者』だからな。つまり相手が力押しでくるなら、その力をそらし、いなし、かわす。 そう―――ただ俺は、受け流しているだけだ。簡単だろう?」 理論的にはどこでも実行されていることだ。 合気道、空手、柔道、古流。―――武術の名がつくところにはどこにでもある技術。 受け流し、方向をそらし、その意を以って、護身と為す。ただ、それだけの技術であり―――答えにすらなっていないだろう。 だが、それを実行することはどれほどの技量が必要になるのか。 己の業によって絶対的な力の差を埋める。 ただそれだけの話であるが、ここに盲点がある。 「そう、単純だ。呆れるほどにな。―――だからこそ制御することは己を鍛えることに繋がるってわけだ」 身体に動きを染込ませる格闘技と違い、精霊術士が行う術法は必ず意思を媒体にしなくてはならない。 故にただ炎術を受け止めるという事と、その攻撃を見極め、受け流すという事には雲泥の差が存在するのだ。 コンマ数秒の瞬間に最適にして最小の干渉を行う技術。 全方位に視角がある風術士故の利点。 そして血の滲む様な鍛錬。 ―――そして和麻はその境地にこの若さで辿り着いていた。 「親父や宗主クラスの化け物共に通用するほど俺も習熟はしてねえが……まあ、お前みたいな未熟もんには十分だ。 さて――疑問も解けてすっきりしたことだろうし、俺も疲れたからいいかげん終わろうか」 和麻はもう用は済んだとばかりに、ただ悠然と綾乃に向かって歩いてくる。 その身体は隙だらけで、だらけきっているようにも見える。 だが、綾乃は身体が動かなかった。 いや、動けなかった。 いったいこの化け物相手にどうしろというのか。 炎術も通用しない。 体力も尽きている。 何も通用しない無力な自分 ゆっくり、ゆっくりと和麻は歩を進めてくる。 どくん。 「……………うあ」 どくん。 距離がどんどん近づいてきている。 炎の照り返しによってできた影が蛇のように蠢いている。 「あ………ああ」 ――どくん。 まるで悪夢のようだと綾乃は思った。 ありえない現実。ありえない結末。 そして目の前の悪夢そのものであるこの男。 「あ、……あああああああああああ!!!!」 じわじわと侵食してくる緊張感に耐え切れずに、綾乃は一気に和麻に突撃した。 爆発する感情が残っていた力全てを解放し、体内の中で半ば本能的に練り上げられた『気』は螺旋を描いて拳に宿る。 和麻は微動だにせず、自然体でそれに注意しようともしない。 そして、綾乃の拳が和麻に当たろうとしたその瞬間――――ぶれるように和麻の姿が消失した。 「―――えっ…」 綾乃は全力で殴りかかったまま、つんのめるようにして上体が泳いだ。 そして。 「……言ったろうが、自己の制御も出来ないお前は『弱い』とな」 その言葉と同時に首筋に重い衝撃が綾乃を襲い、 彼女の意識は暗い闇に閉ざされた。 back next PR
うーむ‥‥マンダム(?)
はじめまして、ガリアンソードと申します。プロローグ2では綾乃が追い詰められていますね~‥原作では和麻は公開リンチになっていたのを考えると‥‥うーむ、何だかゾクゾクと‥(変態ですみません)原作以上に突き抜けた和麻がなにをしでかすのか、楽しみにしています。
thermohaline external record
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nobu
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学生
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読書とプログラム(java)
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現在「風の聖痕」の二次創作を連載中。色々と荒削りなヤツですが楽しんでもらえたなら幸いです。 メールはこちらに nobsute928@yahoo.co.jp
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